コラム

認知バイアスと対象者論

池谷裕二『ココロの盲点』を元に対象者・消費者論をやってみる。

「コントラリーフローティング効果」p41
ネズミなどにレバーを押すとエサ出てくるエサ箱を与えて訓練すると、すぐにレバーを押してエサを得ることを学習する。
学習が終わってから、レバーを押すエサ箱とレバーを押さなくてもエサが得られるエサ箱を同時に置くと非常に高い割合で、レバーを押したらエサの出るエサ箱を選ぶそうである。
おもしろいのは、あらゆる動物の中で家ネコだけがこのバイアスから逃れていて、レバー を押さないエサ箱を選択するそうだ。
さすがネコである。
ここから、対象者もただ、聞かれたことに回答(反応」)するより、自分で回答を作り出す「作業」をした方が良い(楽しい)のであろうと言うのは少し無理がある?

「ダニング=クルーガー効果」p45
時々、ネット記事などで話題になるが、「能力の低い人ほど自分を過大評価する」というバイアス。
池谷先生は、能力が低いが故に自分のレベルを評価できず、同時に他人の評価も正しくできないので、自分の能力を楽観的に評価する。と解釈している。
目利きかどうかよりも自分に対して楽観的の要因の方が強い気もする。
これは、対象者のリクルーティングで問題になる。
○○について「高感度な人」「情報発信する人」などの条件をつけても結果、「本当かい?」という人が集まることがしばしばある。
さらに「皆さんは○○と言うことで集まってもらってます」とフォローしても自信たっぷりだったりする。
ダニング=クルーガーというより、単なる「勘違いな人」なのかもしれない。

「言語隠蔽効果」p68
2つのグループにそれぞれ6人の顔写真を見せ、片方には「鼻が高い」などの特徴説明をさせ、もう一方は何もしない。
1週間後、10人の顔写真を見せ、前回見た顔写真を選ばせると、何もしなかった方が成績がよいと言うことである。
(容疑者の面通しでも、目撃者が先に犯人の特徴をしゃべってしまうと精度が落ちるらしい)
FGIは対象者に自分の行動や印象を説明(しゃべらせる)ことで成り立っているので、その瞬間から対象者の記憶は歪んでいることになるのか?
そのあたりがよくわからない。

「バンドワゴン効果」p109
これなどはFGIのモデレーションで積極的に使うことがある認知バイアスである。
「みんながそういうから、そうするから」という同調圧力が「集団極性化現象」につながり、みんなで合意したんだから、この結論は正しいという強い信念をもつに至る。
クライアントの仮説に沿った結論に「みんなで合意」を装って収斂させられる。
モデレーションとして、グループダイナミックスは重視すべきだが、それが同調圧力とならないように、ましてや集団極性化を起こさないようにコントロールすべきである。

「ゼロリスクバイアス」p135
これは、日常的に観察できる対象者の認知バイアスである。
自分も含めて、人は確率的な考えが苦手である。
カロリー99%オフとカロリーゼロではほとんど差がないのに、調査で比較させると対象者はカロリーゼロを選択するか、カロリーゼロに高い金額を払うと回答する。
コンセプトやキャッチコピーの評価のFGIでこのゼロリスクバイアスを忘れて、カロリーゼロが圧倒的に支持されたなどの結論を嬉々として書くようなことのないように。

「コントロール幻想」p155
これはモンティ・ホール問題と呼ばれる有名な話。
おもしろかったのは、鳥はこのモンティ・ホール問題をクリアするということ。
ただ、最初の選択を変えないというのはコントロール幻想とともに「めんどうくさい」という心理(バイアス?)も大きいのではと思っている。

「連言錯誤」p182
これも有名なリンダ問題である。
FGIの前段で情報を与えてからコンセプトを提示すると前段のストーリーにそった評価になる。
例えば、インタビューの前半で生活習慣病について話題をふって、その後「健康に配慮した新製品」のコンセプトを提示すると「高血圧によさそう」などの反応がでる。
ただ、このバイアスを積極的に利用するのがマーケティングといえる面がある。

「情報フレーミング」p188
これもマーケティングで積極的に使われる。
というより、フレーミングの仕方の勝負がマーケティングもいえる。

「単純接触効果」p211
接触回数が多い方が好意度、信頼度があがる。
毎日、顔を合わせていると自然と好きになる、ようなことをいう。
これは広告効果の話に通じる。 最近、あまり聞かないが「テレビ広告をするような大きな会社だから安心」との発言が象徴している。

2016.3

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