コラム
今週の話題:発話(パロール)の創造性
マーケティングインタビューはモデレーターも対象者も「発話(パロール)」を駆使する。
書記(エクリチュール)、つまり、文字・文章を書く行為よりも不安定で信頼性が低いが創造性(クリエイティビティ)に富んでいる。
<言語起源論>
ヒトは火を扱う、言語を駆使することで他の生物種に対する優位を獲得したことは間違いない。
言語の起源については歌(うなり)や踊り(ダンス)、ジェスチャー、毛づくろい・噂話などいろいろな説が提案されている。
最近、LLMによって言語(文章)生成能力がヒト固有でなく、単なる統計的確率で置き換えられるというショッキングなできごとがあり、それまでの有力理論の生成文法論(チョムスキー)も影が薄くなった。
言語使用をドライブしたのはコミュニケーション機能なのはまちがいない。
発話・発声、つまり、パロールが先に生まれ、書紀・エクリチュールは徴税のために作られたと考えている(個人の主張)。
無言語文明はたぶん存在しないが、無文字文明(アステカ)は高度に発展したことから書紀が発話に対して優位であるとはいえない。
それよりもヒトの情動に近い、情動にふさわしい表現方法は発話・パロールなのではないか。
<発話の即興性と書紀の客観性>
客観性は科学的、一般的とも言いかえられ、測定、計算が可能で、結果から未来予測にも使える。
即興は予測不可能で測定や足したり、引いたりの計算もできない特殊な状況をさす。
ここから、調査票という書紀に基づいて計測する定量調査は科学的で結果を一般化できる(拡大推計)のにインタビューフローがあるとはいえ、即興性の強い発話によって進められるマーケティングインタビューは計測(加減乗除)できないので結果の恣意性から逃れる方法はない非科学的方法と断罪されることもある。
No.174で述べた「身体性」を捨象した定量調査の一般性に対して、定性調査は「身体性」の即興性そのものを保持している。
<発話・パロールの創造性・クリエイティビティ>
科学の発展、工業の発展に書紀(エクリチュール)能力が必須であることは理解できる。
設計図や取り扱いマニュアルのない機械や製品は使えない。発話(パロール)は現場を共有しない限り、取り扱いのコミュニケーションができない。
このことは技術革新(イノベーション)にも敷衍できる(イノベーションは書紀能力から起こる)かというとそうでもないらしい。
ピッツバーグ大学のウー教授は「2000万件の論文と400万件の特許の解析結果から、対面の方がオンラインの共同研究より、革新的アイデアが生まれる」との研究結果を発表した。(日経サイエンス)
また、量子力学のコペンハーゲン解釈もボーア、アインシュタイン、ハイゼンベルグなどの天才たちが、散歩しながら会話で思考実験を繰り返して出来上がったようである。(その記憶を書き起こしたのがハイゼンベルグ「部分と全体」)
以上から発話のやり取りである定性調査は創造性に富んだ方法論であることを見直す必要がある。
固まったマーケティング思考を自由に発散させ、新発見(インサイト)に導くクリエイティブな方法論なのである。
オンラインばかりで仕事していると創造性がなくなる。ヒトと会って会話を楽しめ。という教訓。
2024.11