ホーム > コラム

コラム

今週の話題:α世代サキドリプロジェクト

マーケティングの世代論

 MIHIMでは2025年7月に「α世代サキドリプロジェクト」を立ち上げた。
Z世代に次ぐα世代を「2010年前後から2015年前後生まれの人たち」と定義した。
理由は、Z世代が15年間と長すぎたため通常のリサーチの年代別分析よりも長い期間の設定で、切れ味を鈍らせたことへの反省である。
このことは、最近の若者は、というより「Z世代は」と言った方が「何か言ってる」感が演出できる マスコミのキャッチフレーズに堕してしまったことにつながる。
唯一成功したと言える世代論の団塊世代も1947年から1949年生まれの3年間であり、前後1年広げても5年間と 世代と言うにふさわしい区切りになっている。 この団塊の世代の特徴はそのボリュームである。
3年間の出生数の合計は750万人であり、数で突出している。この突出は小学校でのひとクラスの生徒数が65人にも なる現象を生んだ。
この突出は、高校受験、大学受験での激しい競争となって、団塊世代はお互いに競争する世代と言われた。
日本が高度成長に入るときが就職時期だったので、就職難はなかったが、就職してからの出世競争は激烈であった。
このように量(数)が世代の質に転化したため、現在の後期高齢者になっても前後世代に比べた特性は消えてない。


年代、世代、コーホート

マーケティングリサーチの年代分析は10歳刻みで10代から60代までの集計結果を比較分析して、「この製品は20代 30代の若い層により受容されている」などのコメントをつける。
この年代別集計が5年おきに6時点で得られたとすると以下のようになる。

この6年間のデータ変動の解釈は2000年から2025年まで時代が進んだことによる変動と、10代から60代までの年齢 による変動に分解して解釈できる。
これを時代効果、加齢効果と呼ぶ。
通常、与えられたデータからはこの2つの効果しかわからないが、斜めに移動する動きが想定できる。
2000年に10代だった人は2010年には全員20代になっている。
2010年の20代のデータの中に、2000年の10代 に特有の傾向があるはずと考え、この斜めのデータ変動をコーホートとする。
このコーホート効果は2020年には30代の傾向として現れる。
本来はコーホート効果こそが世代論で語られる世代の特徴であり、内容になる。
コーホートとはローマ時代の最小の歩兵集団のことを言い、共通の戦場体験コーホート、つまり、同じ釜の飯を食った共通体験がその後の生活の行動や心理の中に残るという考え方である。
データ変動を解析的に3つの効果に分ける方法がいくつか提案されていて、統数研の中村さんの「ベイズ型コーホート」 分析もそのひとつである。
マーケティングでは世代論よりシャープな切れ味のSTP概念がある。
世代もセグメントであるが、その後のターゲティングに世代を使うことはない。
マーケティングの視点で見るとコーホート分析はだいぶ迂遠な分析法と言える。
マーケティング分析で10年、20年のデータトレンドがテーマになることは少ないが、疫学では30年、40年トレンドがテーマ になる。
「朝にコーヒーを飲む習慣がある人はない人に比べて寿命が3.5年長い」という研究結果には長いトレンドデータ が必要にになる。
疫学のコーホート分析で、有名なのは「オランダ飢餓冬(Dutch Hunger Winter)」の研究である。
ナチスドイツに占領されていたオランダで、連合国の反撃を恐れたナチスが1944年冬〜1945年春までオランダ北部への食料供給を遮断したため、この地域で深刻な飢餓が発生した。
後にこの飢餓の冬に妊娠中だった人たちをコーホートとし、出生後の追跡調査が行われた。
結果はこれらの人たちは成人してからも体力、精神的発達に遅れが目立ち、特定の疾患にり患しやすいとの結果が得られている。
悲惨な共通体験がコーホート効果となり、時代効果と加齢効果を越えて強く残っているということである。

 

α世代サキドリプロジェクト

Z世代は述べたように期間が長すぎたこととZ世代の特性分析がなおざりだったことが切れ味を欠いた理由である。
Z世代、デジタルネイティブが世代特性と言われていいたが、その中身はZ世代の生年がWin95発売年と重なるとい うだけで、Z世代のデジタルネイティブの意味分析はなされないままである。
Z世代の次はα世代と言われている。我々はこのα世代をサキドリして世代の特性分析を行っている。
次の3つの仮説を設定し、定性調査でブラッシュアップしていく。Α世代は、

①ショート動画ネイティブで、赤ん坊のときからスマホ・タブレットで遊んで、直感的操作を幼児期からマスターした
②AIネイティブであり、それ以前の世代がAIに持つ恐ろしさ、恐怖の感情がない
③東日本大震災とコロナパンデミックを間接・直接に経験し、成長した

 定性調査にあたって、α世代の定義から外れた年齢層も対象にする。
団塊世代のように出生年できれいに線が引ける理由ではないので先行する年齢を含めた方が分析しやすいからである。
第1回調査は7月28日に実施した。現在、分析作業中。
α世代を子育て中の母親に「母親から見たα世代」をリエゾンインタビューで語りあってもらった。
第2回は8月26日に高校2年生のFGIを実施する。


ショート動画ネイティブ仮説のブラッシュアップ

 ショート動画ネイティブは直感的理解とフラットな感情を生むようになる。
パット見で理解と好き嫌いの判断ができるショート動画は、読むのに理解するのに時間と労力がかかる言葉、文章より 気軽に付き合える。
複雑な論理を追ったり、ゆっくり検討したいときは、AIの援助をうければよい。
ショート動画アディクションとなり、長い文章どころか文字そのものを使わない無文字文化に向かうかもしれない。
スマホ、タブレットにゲーム機を加えた3つのパーソナル機器が日常的な人間関係作りを阻害し、学校でのリアルな友人関係作りを苦手にし、家族団らんの様子にも変化をもたらしている。
α世代以前から指摘されている「外遊びから内(家)遊び」へのシフトは、公園に数人集まって各自ゲーム機を見つめていて、たいして会話もせずに解散する。
という28日のリエゾンインタビューでも母親が語っていた。
昔の世代が経験した即興で遊びグループを作り、リーダー(ガキ大将)が自然に決まるというスキルが身に付かない。
家庭の食事にも各自スマホ、タブレットを持って現れ、一家で同じテレビ画面を見ながら団らんということがないので家族内の序列意識も育たない。
父親の権威はだいぶ前からなくなっているが。


AIネイティブ仮説の敷衍

 AIへの過剰な期待感、恐怖感、つまりシンギュラリティなるものをα世代は全く意識していない。
思春期に入ったときからAIは身近にあり、知らないうちに使って恩恵を享受している。
AIすごい!の崇拝もAIに支配される恐怖からも自由である。
この体験は、理想の社会、平等社会を築こうという意欲を刺激しない。
理想社会はAIを駆使することで実現できると暗黙の裡に考えているふしがある。
だから、政治イデオロギーや宗教からも解放されていると言える。
エージェントAIが普及すれば、現在のSNSによるコトバの暴力、フェイクニュースや陰謀論もAIのフィルタリング機能で回避できる。
解放され、そうした開放を経て、AIと心を通わせることが起こるかもしれない。


巨大災害体験はα世代の心理にどう影響するかの仮説

 α世代以前の大災害は戦争であった。
今でも戦争、原爆体験を語り継ぐという運動は続いているが、α世代が体験した 災害はコロナパンデミックであり、人間ではなくウイルスという自然現象が起こした災害である。
人間と社会を正しく御せば、戦争は防げるかもしれないが自然現象はコントロールできない。
α世代の認識として「人として努力しても避けられない、どうしようもできないこと」があると言う認識は深いところに残る。
 AIネイティブと自然災害の体験は理想社会建設の意欲を変えて行くかもしらない。

 

2025.8

ページのトップへ