コラム
今週の話題:モデレーターのエクスタシー
モデレーションに限らず、仕事や作業は楽しいよりも苦しいのが本来の姿かもしれない。
MLBで楽しそうに野球をプレイしている大谷翔平さんも苦しいと思う瞬間や時期もあるはずである。
たぶん、大谷さんは苦しい練習も楽しい鍛錬に変えてしまえるほど野球が好きでその能力と体力が圧倒的なのだろう。
大谷さんにはなれないけど、せめて大谷さん的にモデレーションの楽しさ、よさを追及してみる。
<モデレーターの機能と快感>
モデレーターの機能は「どう聞いていいかわからない」クライアントと「どう答えたらいいかわからない」対象者の間をとりもつことである。
とりもつにしてもクライアントのマーケティング思考・施策と消費者の生活思考・行動との関係性の分析、記述でなくてはならない。
しかも、定量調査(アンケート)のように計測はできず、対象者との会話の中から答えを「紡ぎ出す」という方法論をとっている。
レコーディングでなくライブ演奏ということなので、モデレーションはライブならではの困難さと快感を併せ持っている。
困難さを縷縷綴るよりもこうすれば得も言われぬ快感が得られる方向で話を進める。
<企画書・インタビュースクリプト(フロー)作成時の快感>
クライアントの聞きたいことを過不足なく記述でき、気づいてなかったポイントまで指摘できた企画書とインタビュースクリプトができ
クライアントの前でブリーフィングした時、「ありがとうございます。これで行きましょう」と一発回答がもらえたときは「快感」である。
「あと、これも聞いてくれ」と言われた内容が、企画中に想定されたが、書かなかっただけというような快感もある。
このためには市場の分析、クライアントの戦略・戦術の傾向分析、消費者の反応予測など膨大でつまらない作業が必要なのである。
<インタビューの盛り上がり快感>
対象者全員がテーマから外れずに活発な議論(おしゃべり)に参加し、モデレーターの介入がほとんどないまま進むインタビューは、
この上ない快感である。
このときに気をつけることは、「この盛り上がりをバックルームはどう感じているか?」の注意を怠らないことである。
ズレているようなら、モデレーターは介入するようにする。
盛り上がりのためにはモデレーター話法を駆使することである。
開始時、モデレーターは極力しゃべらず、話してもらうように仕向ける。
プロービングは時間差で行う。仕切りそうな対象者は早めに
潰すが早すぎないように。などがモデレーター話法である。
<わかった!の快感>
対象者と会話しながら、あるいは、対象者同士の会話の中から、暗黙知やユリイカと言われる心理状態を体験することがある。
「そういうことだったのか!」という感覚があり、もう分析が出来上がったと思える状態である。
モデレーター快感として、これが最高である。(だから、時々しか感じられない)
ただ、ここで注意すべきは暗黙知の瞬間が単なる思い込み、思い違いでインタビュー終了後、モデレーターの記憶から消えていることがある。
それを防ぐために、どんな形でもメモすることである。後でビデオをみてもこの感覚は再現されないことが多い。
デブリーフィング後、しばらく時間を置いて考え直してみて、それでも残っていれば、それは新発見なので、分析に使う。
この快感を得るためにはインタビュー中はシステム1の思考でインタビューをコントロールし、システム2の思考でモデレートすることである。
そうしているうちにシステム3が発動することがある。また、デブリーフィング後、思考実験的にシステム3を発動する。
<快感をめざすモデレーション>
反応が鈍い、しゃべってくれない、発言がよくわからない、仕切ろうとする人がいる、あれも聞け、これも聞けと指示が入ってくる。
などで、実際のインタビューの現場は苦行になることが多い。
これらの困難はモデレーターのテクニックでは解決できないものも多い。
苦行の解消より快感を目指したほうが良い結果、モデレーターの満足感につながる。
2025.3