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今週の話題:習慣的ブランド選択意思決定

1.最寄品と買回り品

我々は買回り品と最寄品という分け方をする。
買回り品は、(生涯)購入頻度が小さく、高額で、扱う店舗の数も少ない。
最寄り品は、ほぼ逆で、購入頻度が高く、普及価格で、どのお店(Webサイト)でも扱っているとう特徴を持つ。
この区分けはマーケターの発想であり、消費者自身は意識していないであろう。
入った店、開いた通販サイトで即買いする日常の消費財と、時間をかけて内容検討、比較検討し、店も数か所まわったり、セールス(店員に)説明してもらってから買う消費財があることは、ほぼ意識されないであろう。
マーケターは買う前の消費者意識に注目し、消費者は買う行動の振り返りに注意するという視点の違いである。

2.買い回りは情報探索、最寄りは時間合理化

買回り行動には時間と労力が必要でそのコストを上回る利得が期待される。
利得は購入後の満足の大きさなので、機能、性能、デザイン、価格などの優位性の検討によってもたらされる。
住宅やクルマのように購入頻度が低く高額品という特徴を持つ。
こういった市場のメーカー・流通のマーケティング施策は、機能・性能、デザインの差別性をていねいに訴求することであり、消費者もこういった訴求に敏感に反応して買うものを決める。
一方の最寄り品はどのブランドも一定レベルの機能・性能デザインの要求水準をクリアしていると認識されていて、購入頻度が高く、低価格であることから、比較検討のコストをかけずに購買決定して方が利得が大きい。
この購買意思決定方策を「習慣的ブランド選択意思決定」とし、最寄品市場の典型的消費者行動とする。
購入頻度が高いので、自分の嗜好にあった「好きな、いつもの」ブランドがあり、買った経験もあるブランドである。

3.楽しい買い物とめんどうな買い物

楽しい買い物と楽しくない、めんどうな買い物の区分けがある。大げさに言うと快楽と義務での区分けである。
もちろん、厳密に分けられることはなく楽しいとめんどうが入り混じっているのが通常の買い物である。
買い物の楽しさは、新発見、お得体験、目利き体験で構成される。
自分が知らなかった、世間もおそらく知らない新しいブランドや使い方の製品を発見したとき、いつもより安い価格で買えたときなどは楽しい気分になる。
めんどうくささは、強制感・義務感の強い日々の買い物、失敗したくない重圧、の2つで構成される。
現在はそれほど顕著ではないが、男性は女性に比べて買い物そのものがストレスになる人が多い。
女性はファッション、化粧品の買い物だけでなく、買い物そのものが好きという人が多い。
日常的な最寄品の買い物にも「楽しさ」見つけるセンスは男性よりも女性のほうにある。

4.習慣的ブランド選択意思決定

日本の消費財市場は同じジャンルに最低2ブランド以上が用意されているので、買物のたびにブランド選択をする必要がある。
最寄品市場であっても消費者はブランド選択を強要されていて、毎回、意思決定というストレスを負わされている。
このストレスの解消法のひとつに意思決定を「無」にして、過去の体験を繰り返すブランド選択意思決定する方策がある。
過去の体験の繰り返しは習慣化の契機であり、習慣化とは自動化された日常行動である。
だれも子供の頃歯磨きを強制されたが、今や歯磨きしないと少し不安になるくらい習慣化した歯磨き行動を行っている。
買物場面では、棚を見ながら、前回選んだブランドが目に付けばそれを選んであとはスルー。
今まで買ったことがあるブランドにまで広げれば、ブランド選択意思決定は極めて短いし、ストレスはゼロに近い。
ネットでの買物なら、購入履歴が表示されるので一層、習慣的ブランド選択がなされる。
この習慣的ブランド選択意思決定は意識下で行われていて、調査、インタビューしても明らかになることは少ない。
ストレスの回避行動なので、適当な回答が用意され、それを確信してしまう。
それを選んだ根拠、理由は?という質問に対して、「いつも買ってるから」「機能が優れているから」などの合理化理由や「安かった から」などの誰でも納得せざるを得ない理由を返して調査は終ってしまう。

5.習慣化の契機とドーパミン

朝、歯磨きすると親や周囲の人が褒めてくれる。
褒められると脳の報酬系と言われる腹側被蓋野(VTA)からドーパミンが分泌され、側坐核(NAcc)で快感や「やる気」を 活性化する。
さらに扁桃体(Amygdala)では報酬情報を学習・記憶し習慣となるきっかけとなる。
それは、海馬(Hippocampus)で長期記憶となり、習慣化が始まる。
歯磨き行動のドーパミン分泌は期待値としてあり、2回目、3回目では報酬情報の期待値と実現値に差異を予測する。
期待値以上の報酬、例えば、幼稚園の先生に「◯ちゃん偉いね!」と言われるなどがあると、ドーパミンが多く分泌され、 学習・記憶・長期記憶化が進んで、期待値と実現値の差がなくなっても、つまり、日常行動になってもパターン化・習慣化は くずれない。
歯磨き行動のようなポジティブな行動の習慣化は喜ぶべきことだが、世の中にはネガティブな行動の習慣化という問題がある。
典型はクスリとアルコール・ニコチンであり、依存症と呼ばれる疾病である。
クスリや酒に依存するようになると「悪いこと、やめるべきこと」と理解納得していても脳の報酬系の誘惑に簡単に負けてしまう。
論理、理性、計画性を司る前頭前野はドーパミンの分泌、作用を抑制するように働くが、前頭前野はVTAなどドーパミン 報酬系の作用機序から切れているので、断酒やクスリ絶ちができていても小さなきっかけで依存症に戻ってしまう。
麻薬中毒やアルコール依存症から回復して何年も経過人でも、たった1回の「もう、だいじょうぶだろ!いっぱいくらい」の善意の強要がきっかけで再発する人は多いらしい。
習慣的ブランド選択意思決定は依存症ではないが、習慣的ブランド選択スキームはおそらくなくならない。

6.習慣的ブランド選択意思決定と報酬

ブランド選択の報酬は、選択結果の満足度である。Aを選んだ時点では、選んだA以外のブランドのことはわからないので、選択 意思決定は常に「予期、想像」に基づいて行われる。
これでは、ブランド選択意思決定のたびに認知的不協和が発生してしまう。
それを解消すべき行動、例えば、ネットでよい口コミを探したり、広告をよく見るなどの行動をすべきというプレッシャーが生じる。
これでは、ブランド選択が苦しい作業になってしまい、報酬系は働かない。
この苦痛を回避するために、「ブランド選択をしない」方策、 「前回と同じブランドを買う」行動が生まれたと考える。
前回と同じブランドを買ったときの報酬は
 ・選択というストレスフルな仕事を回避できた ← リスク回避行動
 ・前回と同じ満足が保証されている ← 安心 の2点の満足感である。
この満足感がドーパミンを分泌し、快感を感じ、学習・記憶され、長期記憶になって習慣化される。
こうして、習慣的ブランド選択意思決定システムが脳(ニューロン)のパターンとして定着する。

 

 

2025.5

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