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今週の話題:Attention:注意

1.消費者行動モデルのAttention
AIDA、AIDMA、AISAS、どれも起点がA(Attention)である。
Attentionの辞書的な意味は「注意、注目:興味、関心」である。
上記のように、Attentionには、興味・関心の意味もあるが、消費者行動モデルはI(Interest)のステップがあるので、 消費者行動モデルでは、注意、注目の意味で使われると考えてよい。
人があるブランド、製品を認知するプロセスは「感覚刺激→注意機構→知覚→認知・記憶」と仮定できる。
感覚刺激は視・聴・嗅・触・味の五感であり、五感それぞれに受容機構の制約を受ける。
例えば視覚・聴覚はそれぞれ感覚器(目、耳)が受信できる周波数の幅があり、それを越えると受信できない。
感覚刺激の受容には、この生物学的(物理的)制約だけでなく注意機構によるフィルタリングがある。
ヒトだけでなく、あらゆる生物は環境から膨大な刺激を受けている。
環境からの刺激は自然環境だけでなく社会環境 からもやってくる。
これらをすべて知覚していたら我々の脳はすぐにオーバーフローしてしまう。
そこで、よく言われる「目は見たいものだけを見る」、「耳は聞きたい声だけを聞ける(カクテルパーティ効果)」という方策で感覚刺激のフィルタリングが無意識に行われる。
100万年くらい前、ヒトの祖先が森から出て、見通しの良い草原で生活するようになった時、草むらが動いたという視覚 刺激に対して「何だろう?」とフラットに探索するような個体は生き残れない。
まず「捕食者であるを予測」し、改めて探索する個体は、逃げる準備ができているので、生き残りやすい。
捕食者だという予測のもと新たな感覚刺激(注視する)を得て、予測誤差が最小になった(間違いなく捕食者だ) ときに逃げ出せば、予測なしの個体より、生き残る確率が高くなる。
このような進化学的圧力はおくとして、捕食者こそいないが、新しい感覚刺激であふれる現代のマーケティング状況の中 で「見たいものだけ見る」方策は合理的である。

2.感覚刺激と注意資源
あふれる感覚刺激にフィルターをかける注意機構は感覚器と脳の共同作業になる。
感覚器も脳もコンピュータ(AI)ではないのでフィルタリング作業に量(回数)と時間の限界がある。
この注意機構の動作の制約を「注意資源」とし、注意資源は使いすぎると枯渇してしまう。
注意資源には限度があるとしても注意機構を発動しなければ、膨大な感覚刺激は、知覚も認知もされず、流れ去って行って、記憶にも残らない。
逆にあらゆる感覚刺激に注意機構を発動していたら「なにも見えない、聞こえない」フリーズ状態になるか、精神を病む。

3.注意資源の構造
注意資源は注意ポイント数と注意継続時間で測る。
大学生がひとつの講義に注意を集中できる時間は90分、小学校低学年では40分が限界(諸説あり)と言われる。
視覚に限定してみると、注意を集中できるポイントは通常1点である。注視するとは1点を見つめることである。
4人のプレーヤーがパスをしている様子を観察させて、観察者に「うまくパスできた回数を正確に数え」との指示を出し、途中でゴリラの着ぐるみが4人の間を通っても、8割の人はゴリラ気づかなかったという心理学の実験がある。
ある点に注意を集中すると、他の感覚刺激はマスキングされてしまうのである。
注意を集中できる継続時間は個人差や対象への興味・関心度合いで大きく変わる。
覚醒していれば注意機構を発動できるので、睡眠時間を除くと人の注意資源には1日当たり16時間くらいであろう。 この注意資源を学校、仕事、生活、趣味、娯楽などで奪い合っているのが日常生活と言える。
日常生活の限られた部分に過ぎないマーケティングに関わる注意資源についても激しい奪い合いが行われている。
店頭陳列では他社ブランドより注意を引く棚のゴールデンラインを取り、目立つPOPを仕掛けるし、広告では、きわだったコンセプト、作品、ストーリー、タレント、音で、自ブランドに注意を集中させようと争っている。
消費者は「買物行くのめんどう」とか「ネットの広告はウザイ」とかで、マーケティングに関わる自分の注意資源が枯渇して いることに気づくが、マーケターはそれに気づかず、消費者は無限の注意資源を持っていると思いがちである。

4.ボトムアップ注意とトップダウン注意
感覚刺激がきっかけになって注意(注視)するのがボトムアップ注意で、ある目的のために意図的に注意を集中するのがトップダウン注意である。
先の草原に進出した人類の祖先の視線の例でいうと「草むらが動いた」という視覚刺激によってそこに注意を集中したことがボトムアップ注意であり、「捕食者が近くにいそうだから草むらをよく見よう」と注意を草むらに集中しようとしたならばトップダウン注意が発動したことになる。
ボトムアップに意識は不要だがトップダウンは意識・意思が必須である。
ボトムアップ注意は、色、形、大きさなどを際立たせる、、動きがある、光の点滅などがきっかけになる。
新製品やCMはボトムアップ注意を狙って存在に気づいてもらい、認知、記憶にまで進めることを目的にしている。
認知、記憶されたブランドはボトムアップ注意にかかりやすくなるが、認知、記憶を頼りに探してもらう、つまり、トップダウン注意の「目的」になることをマーケティングはめざしている。
ブランドロイヤリティとかCEPsはトップダウン注意の位置を獲得することと言い換えられる。

5.Attention→注意→認知、認知率
マーケティングには売上、利益、シェアなどいろいろな指標がある。
消費者行動モデルのAttentionは「注意」であるが、認知、認知率までいかないと注意の意味はなくなる。
知られていないもの買われない、買うことは知ることである、の原則に立てば、買う(Action)の前に必ず知るステップがある。
そして、知るためには「注意」を向けなくてはいけない。
注意を向けてもらうは、ボトムアップ注意の作動のことである。ここまで考えてきた。
さらに、消費者個人個人が持つ「注意資源」には一定の限界があるとした。
消費者は自分の注意資源を効率的に使うために「見たいものだけを見る」方策が取る。
これではトップダウン注意だけを作動させることなので、ボトムアップ注意のために新たに注意を引くものが必要になり、テレビにしろ、ネットにしろ広告は「注意」を引く刺激的で派手なものになる。
ボトムアップ注意発動なためには派手さ、刺激、しつこさが必要だが、これらはマイナスに働くリスクがある。
もうひとつ注意を引く方法に広告の大量投下がある。
これはヘッブの法則の応用で、繰り返される刺激にはボトムアップ注意を作動させる(ことがある)。
ボトムアップ注意を作動させ、ブランドのコンsプト、ネーミング、パッケージデザインを認知させ、認知者の数がある閾値を超えればトップダウン注意のブランドになれる。
店頭での大量陳列、特売などと組み合わせれば、トップダウンと同時にボトムアップ注意を発動できるブランドになる。
こうして、最初のA(Attention)は次のInterrestにスムースにつながるモデルが動き出す。

 

2025.7

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