コラム
「消費情動」による新しい消費者行動論(仮説)
「消費情動」という概念を考えている。
消費者行動分析や消費者行動モデルを作る時のキー概念としたい。
従来の消費者行動(論)のキー概念は「ニーズ(ウオンツ)」と「選択」であると考える。
消費行動は何らかのニーズ(必要)やウオンツ(欲求)が消費者側に発生しないとスタートできない。
ニーズ(ウオンツ)は生理的、心理的、社会的な背景から発生し、刺激情報として消費者の意識に到達する。
その刺激情報が、消費行動(購買行動)の契機となる。
このニーズ(ウオンツ)が、情報収集、探索行動を起こさせ、比較検討ののちに自己利益を最大化するよう選択(購入)する。
その後(購入後)、数は少ないが、情報発信が生まれることがあり、それが他の消費行動の情報収集・探索の養分になる。
この線型プロセスが現在の消費者行動論であり、そこにはニーズ(ウオンツ)と選択の2つのキー概念がある。
ただこれは、ニーズ(ウオンツ)が発生しない限り起動しない、プロセスの方向が一方通行であるという2つの欠陥を持つ。
消費者としての自分を考えたとき、ニーズ発生→情報収集→比較検討→選択(購入)のような単相プロセスではなく、もっと複層的であろう。
例えば、情報収集から比較検討に行かず、収集した情報がニーズにフィードバックされ、当初のニーズが消えたり、変更されたりする。
一連の行動連鎖は、選択(購入)行動は次のニーズや情報収集に大きく影響するなどループ状になる。
そこで、ニーズ発生を起点に購入を終点とする直線から、それぞれが複雑に絡みあって常にダイナミックに動く円形(球形)の運動体として消費行動を定義し直す。
この運動体を「消費情動」と定義する。
従来の消費行動論の特性として、「刺激⇄反応」論に基づいていることが挙げられる。
環境からの情報を「刺激」とし、刺激に対して消費者は「反応」する、それが消費者行動であるとの認識である。
ここで我々は、消費者(の脳)は刺激に反応するのではなく「予測」するものであると考えることを提案したい。
例えば、「今日は暑い(生理刺激)、35度あるらしい(心理・社会的刺激)」に対して「のどの渇いた何か飲もう」との反応ではなく「ガリガリ君かな」と予測する。と考える。
反応より予測の方が現実的だし、生活感を拾っている。
「暑い、35度」との情報刺激に何か飲もうと反応には無理があり、暑いときはガリガリ君がおいしいと予測する方が人間的であろう。
ニーズの発生、情報収集、比較検討を飛ばして、ガリガリ君を求めて意識・行動がジャンプ(飛躍)する。
この心理・行動パターンが「消費情動」の反応プロセスである。
以上、消費情動は、ループ型行動と「脳の予測」からできている。
消費情動は新しい概念で、輪郭もはっきりしないし、当然、計測の方法も未開発である。
ここで、いくつか概念的な輪郭を述べる。
まず、消費情動は個人的である。消費者個人の消費体験の積み重ね、収集した情報、学習などの記憶で成立している。
ガリガリ君で言えば、過去、食体験があり、よい(おいしい、冷感があった)記憶として保持され、最近の接触情報も評判がいい、
ダサイなどの噂もない、などで良さが強化・強調されている状況が想定できる。
次に消費情動は4Pとして分析されるモノ消費を越えて、個人の体験に昇華されるコト消費も視野に入れた概念となる。
消費情動の重要要素である「予測」は体験・コト消費の方が、モノ消費よりも強く記憶に残るはずである。
消費情動はスローではなくファストな反応である。(カーネマンの言うファスト&スロー)
消費財の購買意思決定はファストだが、耐久財、高額財、情報財の意思決定はスローであるとの認識は一般的である。
だが、消費情動概念では購買意思決定はファストな反応であると考える。
十分に時間をかけて比較検討する住戸(戸建て、マンション)でも第一印象(ファスト)の影響は大きいと考える。
消費情動は、個人と集団、商品ジャンル、生活場面、ライフステージで大きく変化・変動するだろうが、そのことがダイナミックな消費者
理解を生むと考えている。
最後にブランディングやブランドロイヤリティの分析に使える可能性を考えている。
さきのガリガリ君の例で言えば、「暑い、35度」という刺激だけで「ガリガリ君」という情動反応が得られるように消費情動を作れれば圧倒的な競争優位性が得られる。
従来のブランドロイヤリティ分析よりも有効性が高いと考える。
2020.9