コラム

「他人を見下す若者たち」

最近の新書のタイトルは秀逸ぞろいです。
「バカの壁」が最初だろうと思いますが、「人は見た目が9割」「99.9%は仮説」などおやっと思わせるタイトルが多くなっています。
この本も「自分以外はバカ」の時代!という、腰巻きの大きなサブタイトルが目をひきます。
本のタイトルよりもサブタイトルの方が大きな活字を使っていることから見てもマーケティング上のタイトルは「自分以外はバカの時代!」であることがわかります。

この本での重要な概念は「仮想的有能感」です。
この仮想的有能感が「他人を見下す」若者を生んでいるということですが、論旨がよく理解できず納得できませんでした。
いろいろな調査データを使ってはいるのですが、こういった「心理学的調査」に特有の「あいまいな」部分が多くて、データをどう読み込めばこういった結論が出てくるのか納得しがたいという印象です。
マーケティングリサーチの報告書でさえ、データと結論が一意に結びつかないのですから仕方ないといえば仕方ないことです。
最近話題の「下流社会」も「なんで?」と思う部分が多かったのではないでしょうか。
消費者論、文化論、文明論、日本人論などの著書に共通の傾向といえます。

仮想的有能感という概念ですが、これを持つことが「悪」であるということが理解できません。
この有能感は文字通り「仮想」ですから、現実にぶつかればすぐに崩れてしまいます。
それでも崩れなければ、仮想ではなく「有能」そのものになるので喜ばしいことです。
有能感は自信と積極性に支えられているもので無能感で引きこもるよりもよほど有効です。
ところが、自分の有能さは前面に出さず、謙遜するのが美徳とする考えが根強くあります。
「下流社会」の著者の考えの基本もこれではないでしょうか。

知識人(これは死語?)やマスコミのこうした思いこみを越えて、消費者の「有能感」は最近とみに強くなっているというのがインタビューしている人間の感想です。
この有能感は、マーケティングがいう「顧客第一主義」とは関係ありませんし、自分を上流と認識するか、下流と認識するかにも関係ありません。
日本で階層化が進行しているという懸念は持っていません。
現実は、階層化ではなく多層化しているという強い認識があります。
こういった消費者心理の傾向の要因として

  • 日本の資本主義の発展が超高度になった
  • 戦後民主主義教育のの成果と弊害が確定してきた

の2点があると仮想しています。
失われた10年を克服して静かに力強く復活している日本経済というだけでなく、日本の資本主義は全く新しい地平に入りつつあるのではないでしょうか。
そこには18世紀的発想の「階層化」など入り込む余地はあありません。
この超高度化された資本主義は、戦後民主主義の「個の自立」思想の浸透に支えられ、戦後民主主義の「悪平等」思想からは攻撃されてきました。
そしてこの数年で新しいステージに達したのが日本の高度資本主義なのです。

2006,3

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