コラム

「小説3題」

仕事がヒマなので小説を3冊も読んでしまいました。
長嶋有「夕子ちゃんの近道」、城山三郎「本当に生きた日」、瀬戸内寂聴「秘花」の3冊です。
一番目は大江健三郎賞受賞、二番目は作者が最近亡くなった、三番目は何となく山田詠美の2冊(「風味絶佳」「無銭優雅」)の続編のような感覚がして、それぞれ手を出しました。
作家は小説を書く前に資料収集をするそうですが、これをリサーチと考えて、この3作のリサーチの特徴を想像してみました。
「夕子ちゃん」がリサーチとしては、簡単に、いい加減に済ませたのではと思われます。
登場する骨董屋の名前は秀逸ですが、骨董について詳しく調べた形跡はありません。
フランス人女性の大相撲の蘊蓄も底の浅さがみえます。
恐らく、Web検索でリサーチしたと思われます。
リサーチは浅いのですが、作品は完成度が高いと感じました。
夕子ちゃんが近道を通るシーンは宮沢賢治のようでした。
この作者は、授賞式で大江健三郎に「ほとんど本は読みません」と答えたらしいのですが、本ばかり読んでいた(いる)大江さんには理解できない作家なのかもしれません。
城山三郎はリサーチに失敗しています。
恐らく、女性起業家の本や女性雑誌の記事をネタにしたのでしょうが、作品が浮ついています。
だれか典型的な女性にインタビューすればよかったのではと思いますが、もし、インタビューしていたとしたら対象者の選定ミスかインタビュアー(城山さん)が下手だったと言えます。
「落日燃ゆ」にあったリズムや緊迫感が全く伝わって来ません。
そもそも女主人公で小説を書ける作家ではなかったのではないでしょうか。
瀬戸内寂聴は源氏物語を現代訳しているくらいですから、世阿弥の時代や周辺人物のリサーチも充分行っていたと思いますが、その成果よりも男色の世界の描写に筆が走っていて寂聴らしいと言えます。
こういった時代小説はリサーチ結果を並べ立てると現実の調査報告書や歴史書を読んでいる気分になってしまいます。

リサーチは大切だが、必須ではないし、リサーチの設計を誤ったり、リサーチに拘泥するとマーケティングに失敗するという教訓を強引に導き出せた小説3題でした。

2007,7

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