コラム

マーケティングと文化人類学的エスノグラフィー

<マーケティングとエスノグラフィー>

マーケティングは、経済学、統計学、心理学に拠る部分が大きい。
エスノグラフィーのマーケティング活用は、世界ブランドが未開拓の国や地域への進出、IT分野のUI開発の2つがきっかけだったと記憶する。例えば、洗濯用洗剤を発展途上国に売り込もうとしたとき、洗濯行動を当該地域の独自文化の中に位置づけて調査・分析す る必要があった。
また、ITのトップ企業が、ユーザーや開発者とのインタフェースを追及するとき、行動を個別に分析するのではなく、ユーザーが独自文化を持つとして仮定して分析する必要があった。マーケティングが初めて「異文化」理解に直面した時である。

<行動観察調査は必ずしもエスノグラフィーとは言えない>

行動観察はマーケティングリサーチに古くからある手法である。
われわれも機器の改善点の発見や社員(店員)の行動マニュアル作成などの目的で行動観察を数多く経験している。
これらは探索的、仮説発見型のリサーチと言えるが、行動観察の場面はコントロールされ、仮説検証型に近い。
また、観察者と被観察者は完全分離され、主客の関係性は最後まで固定される。
(『マーケティングリサーチ<定性調査編>』p44の例でもコーヒーを入れる行動の観察で、飲む行動までは観察していない)

<われわれは改めて、文化人類学的エスノグラフィーを提案する>

単なる行動観察をエスノグラフィーとする誤用があるので、若干トートロジー気味だが、「文化人類学的エスノグラフィー」を提案する。 文化人類学的エスノグラフィーは、
 ・イノベーションをもたらす消費者の潜在ニーズ、潜在「不」を人類学的手法を援用して明らかにする
 ・エスノグラフィーは、我々マーケターやリサーチャーの思考に「リフレーミング」を起こす
の2点を期待値(アウトプット)とする。

<文化人類学的エスノグラフィーの視点を導入して、マーケティング戦略の立案と定性調査を強く結びつける>

文化人類学では単純な行動観察ではなく、参与観察という方法論を取ることが多い。
先に述べたようにMRの行動観察は、観察者・被観察者の役割が最初から最後まで固定され、観察者は客観的分析を行う。
参与観察は、被観察者の生活の中に入り込んで、被観察者の視点も含めて行動観察・分析を行う。
ここから、生活に深く根差したマーケティング分析、リフレーミングの契機が生まれ、有効なマーケティング戦略の提案につながる。
この方法論の欠点は時間がかかり過ぎてマーケティングのサイクルに合わないことだが、その欠点も克服していく。

<オンラインエスノグラフィー>

コロナ禍によるリサーチのオンライン化圧力はまだ大きい。
エスノグラフィーのフィールドはオンラインになじまない特性をもっているが、逆手にとってオンラインエスノグラフィーも提案していく。

2021.12

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