コラム
オンラインエスノグラフィーの実際
新しい定性調査の試みとして「オンラインエスノグラフィー」を4月4日に実施した。
その結果報告である。
ここ数年のコロナ禍によって強制的にオンラインにシフトさせられたインタビュー調査での発見は以下の2点。
①現在のオンライン会議システム(ZOOMなど)では技術的な問題でグループインタビューは不可能
②1on1も①は同じだが、対象者が自宅にいるので、商品や使い方の動画を送信してもらえるメリットがある
①は制約事項だが、②の発展性の注目してオンラインエスノグラフィーを企画した。
「オンラインで、エスノグラフィー」は矛盾、困難を含んだ表現だがオンライン会議システムのサブのメリットをマーケティングのエスノグラフィー手法で活かすことでオンラインエスノグラフィーが可能になった。
マーケティングでのエスノグラフィーのフィールドは「生活文化」の発見、リフレーミングをもたらすことを期待して実施される。
その2点の期待値を満たすことは、イノベーション駆動の契機であるとの仮説をもっている。
生活文化とは、ライフスタイル概念の再構築であり、行動観察の分析から構成する。
リフレーミングはマーケターの認知・認識(思い込み、常識)の再構築で「ある発見」のことである。
生活文化の発見とマーケターの認識のリフレーミングは相乗作用し、硬直したマーケットのイノベーション駆動の契機となる。
4月4日のオンラインエスノグラフィーは次のプロセスで実施した。
・テーマ設定はいつものインタビュー調査と同じ←「調理のエスノグラフィー」、調理行動の観察とインタビュー
・リクルーティングは機縁法←対象者の部屋の中を撮影させてもらうため説得的リクルーティングが必要
・ZOOMの接続テストで、軽い事前インタビューとターゲット(今回はキッチン)の撮影映像をもらう
・インタビュー当日はカメラの前で行動(調理)してもらい、それを観察、録画する
・インターバル後、録画を再生しながらインタビュー
オンラインエスノグラフィーの結果は以下の通り
<生活文化と言えそうな観察結果>
①キッチンは合理的な動線設計というコンセプトで固まっている。しかも、ひとり作業の動線を前提にしている。←住宅設計
②調理作業は準備から煮る・焼く、片付けまでの線形作業であるが、途中に小さなサブループがある。
③健康意識に「ある線引き」がある(ここまではこだわるが、その先は)。
④清潔意識にも線引きがある(汚れと穢の線引き)。
<我々マーケターにもたらされたリフレーミング>
①ムダのない動線という思い込みがキッチンの行動の自由を奪っている。
・娘が手伝いたい(手伝わせたい)と思ってもキッチンに2人入ると両者が動けなくなる。← 観察+インタビュー
②料理番組のように線形で進めない。戻る動線が多数ある。
・鍋で野菜を炒めてから冷蔵庫に肉を取りに行く。← 観察
・調理の途中で洗い物をする。シンクのゴミを片付ける。←観察+インタビュー
③ここまではこだわるが、ここから先はいい加減(まあ、いいや)のこだわりポイント。
・全部飲み込むもの(味噌汁、スープ)は浄水器と本格調味料、茹で汁は水道水とSB塩コショウ← インタビュー+観察
④汚れ物、ゴミは早く片付けたい、穢も見えないところに収納したい。大根から切り離した葉の部分はその瞬間ゴミ・穢となる。
・調理の途中でシンクのゴミ片付け、蓋のついたゴミ入れ。← 観察
・油ハネガードは毎回折りたたみ、2週間以内で替える。← 観察+インタビュー
<イノベーションの方向性提案>
住宅の設計、特にキッチンは合理的導線にこだわりすぎず、「遊び」を取り入れた設計もあるのでは。
その時のコンセプトは夫婦で調理、子供と調理。→アイランドキッチン以外の設計
シンクが一杯になる前に調理の途中で洗い物をする。この行動のためのキッチン洗剤と手拭き用具の提案
浄水vs水道水、天然だしと粉末だし、などの使い分け提案のキャンペーン
捨てるだけのゴミ、再利用を期待できるゴミ、ゴミではないが使わないで捨てるものの区分け。汚れと穢の区別
2022.7