コラム

店頭と生活現場のエスノグラフィー

参与観察とは対象の中に「入り込む、棲み込む」観察を行うことから客観的な観察だけは得られない全体的で「了解的」な理解を得ようとする方法論です。
ただこの方法論は我々が常日頃からマーケティングインタビューのモデレーターの態度として目指していることとほとんど変わりがありません。
われわれのグループインタビューは対象者の態度や意識を客観的にとらえようとするだけでなく、対象者の中に入り込んで共感的な理解(これを了解的理解という)を得ようとするものです。
ここで困難を感じるのは、対象者も我々も「購入や使用、生活の現場」から離れたインタビュールームでこの了解的理解を得ようとしていることです。対象者には「そんなこと思ってもみない。思い出せない。何と言えばよいのか」といった意識していない行動、記憶力、表現力の困難さとして表れ、モデレーターには購買や生活場面が見えないので理解が進まない、誤解(誤解釈)の危険が大きくなるという困難として表れます。

この困難の多くが参与観察(エスノグラフィー)によって取り除かれます。対象者と観察者が一緒に現場にいるのですから、記憶力に頼る部分はなくなり、表現力も即座に「助け船を出す」ことができます。無意識の行動の意識化が最も難しいと予想されますが、これも対象者に意識的になってもらうことで解決できそうです。マーケティングリサーチの思想からはこれは全て「バイアス」となって対象者の回答を歪めるとされそうですが、この「バイアス」の考え方こそが客観的観察の「神話」といえます。

ここでマーケティングリサーチの参与観察の現場を考えてみます。
大きくは「ブランド選択・購買の現場」である店頭と購入して「製品を使用する生活の現場」とに分かれそうです。
後はボンヤリとテレビを見ている現場(CM接触・評価)、口コミサイトを見ている画面なども現場であるので四六時中観察することが必要になりますが、普通は「店頭」と「製品使用現場」だけで充分と考えられます。
(ネット通販の店頭はサイトの閲覧時になります)
店頭での参与観察には古くから「店頭プロトコル分析」がありますが、それよりももっと相互観察的になります。
製品使用現場の参与観察は商品企画・改良が主な目的になります。

現在のところ店頭での参与観察に興味・関心があり、次回セミナーで是非トライしたいと思っています。

*前回取り上げた「VoiceGraphy」は北海道NECさんからパンフレットが届きました。
「重なった発言があると記録できない」との制限があり、グループインタビューではまだ無理のようです。

2009,9

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