コラム

ワーキングメモリーは4人まで

モデレーターは、インタビュー中は対象者の発言や態度に「注意」している。その注意はトップダウンの注意であり、「集中」と言い換えてもよい。
トップダウン注意の中で対象者の「思わぬ発言」「意外な反応」というトボトムアップの注意にも対応する必要がある。
仮説的な質問内容が裏切られたり、仮説を越えた反応があった場合は、それらを再構成して新たな仮説を作る。
その仮説を再び質問として対象者集団に投げかける。
こうして、グループダイナミックスが生まれ、集団としての意思のようなものが観察できるようになる。

集団の意思がどのように、何によって変化するかを把握しながらモデレーションをするのだが、集団と同時に対象者個人がどのような態度変容をしているかの観察も必要である。
AさんがCさんの発言で、認知・態度が変化し、Cさんの変化をきっかけとしてBさんが自分の意見の修正や強化を行うのがグループダイナミックスである。
集団(グループ)の意思と構成員の意思の関わりをつぶさに観察して、知見やインサイトを引き出せるのが成功したモデレーションである。
常にこのことを意識してモデレーションしているが、終了後、非常に印象の薄い対象者が1名か2名発生する。
自分の能力の不足が原因と思っていたが、そうでもないらしい。

「対象者個人の情報を保持しながら操作する」という機能は、ワーキングメモリーの機能そのものである。
当然、このワーキングメモリーの容量には限界があるはずである。(我々は聖徳太子ではない)
このワーキングメモリーの容量を測定した実験が行われた。
Luck&Vogelの視覚性ワーキングメモリーの容量測定が1997年、Alvarez&Cavanaghはその他のタイプの刺激で容量測定を行った(2004)
その結果は、追跡できる刺激の数は「4」であった。
個人を追跡しながらその態度変容を測定・識別できるのは4人が限界といえるのである。
Miller1956の短期記憶の容量7±2よりもはるかに少ないのである。

これを受け入れるなら、モデレーターが対象者個人を注意・分析しながらコントロールできる対象者人数は4人が限度と言える。
モデレーターが体験的に感じていた「6人は多すぎる」という感覚は脳科学的に正しいかったと言えそうである。

モデレーションの立場からのFGIの最適対象者人数は4人である。

 *新曜社『注意をコントロールする脳』参照

2015.10

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