コラム
シナプスがブランドをつくる
ジョゼフ・ルドゥー(ニューヨーク大学神経科学センター教授)の「シナプスが人格をつくる」を読みました。
「自己とは何か」という古くからのテーマに、脳科学の最先端の研究成果をふまえて、ひとつの答えを提起しています。
著者みずから「レベルは下げなかった。」と宣言しているだけあって、一般読者の自分には理解するのが難しい内容でした。
難しい本は、難しく読むのではなく徹底的に自分の関心分野に置き換えて読むのがひとつの手です。
曲解、誤解を恐れずに今回も「強引アナロジー読み」で読みこなしてみました。
脳科学は、「知覚・記憶・情動」の3部作をそれぞれの個別に扱い、それぞれ脳の特異な分野が受け持っているという前提で発展してきたそうです。
そのことは大きな成果をあげてきたのですが、「自己」とか「人格」のメカニズムについてはあまり関心を示して来なかったのが脳科学者だそうです。(養老先生は脳科学者ではない?)
著者は、「自己」とは、脳の中のニューロン相互の接続のパターンであり、ニューロン間の接続はシナプスが担っている。脳の機能のほとんどは、このシナプス伝達と過去のシナプス伝達により書き込まれた情報が呼び起こされることによっていると主張しています。
自己認識の基礎である「記憶」もこのニューロン間のシナプス伝達によっているらしいです。
詳しく説明できるほど理解していませんが、いくつかおもしろそうな項目をあげてみました。
- シナプス前ニューロンから神経伝達物質が放出され、シナプス後ニューロンに情報が伝わる。
- 使わないニューロン接続は消えていく。(誕生、成長過程で新しいニューロン接続ができていく)
- ニューロン接続には可塑性がある(ヘッブの可塑性=ファイアー&ワイアー理論)
- LTP(海馬の神経繊維への高頻度、短時間の電気刺激)が学習、記憶の基礎である。
- 思考、行動のために脳には「ワーキングメモリー」(短期記憶)がある。
- 言語的ワーキングメモリーは人類だけ。
- 精神疾患はシナプスの病気である。
などがあります。
ここで、強引にマーケター、リサーチャーの視点で読むと、「ブランドの認知、ブランドイメージの形成、(買い物行動も?)など全てがシナプスの接続によるものだ。」となります。
高度化した日本の消費市場では、全くの新製品は数少なくなっています。
いろいろなブランドがひしめく中で、(店頭で)見かけなかったり、CMを見なかったりするブランドの「ニューロン接続は消えて行く」のでブランドは、常に刺激を発していないと忘れられてしまうのです。
(また、「新しいニューロン接続には時間・時期の制約がある」ので、マーケティングにもタイミングが重要。)
一度できあがったブランドイメージも「ニューロン接続には可塑性がある」のでイメージの再構築、更新は可能です。
新製品を認知してもらうには、「LTPが学習、記憶の基礎」ですから、高頻度の電気刺激が必要で、それが、広告効果の閾値の存在を説明します。
というようにブランドの認知、ブランドイメージの形成は、脳科学のアナロジーで説明できます。
「だから、何?」という話になってしまいましたが、リサーチャーとしては、「脳にワーキングメモリー」があるという発見が重要に思われます。
次回はこれについて考えるつもりです。
2005,10