コラム

エピソード記憶

マーケティングリサーチは、その大部分が、人々の「記憶」をリサーチしているといっても大きな間違いではありません。
銘柄認知、購入経験、ブランドスイッチ、ブランドイメージなどの調査項目は記憶そのものではないものの、対象者の記憶の一部を調査しているといえます。
マーケティングで記憶というと、AIDMA理論のM(Memory)が古典的な「記憶」と言えるかもしれません。
記憶は、脳科学の主要なテーマで、その仕組みを解き明かそうと躍起になっています。
何故かというと、「自己(認識)」とか「心」を脳科学的に考えると必然的に記憶が問題になるからです。
現在は、(感覚)刺激がどのようなプロセスで『記憶』となるのか、記憶は脳のどこの部位に『蓄積』され、どのように再生されるのかといったアプローチがとられています。
脳科学の記憶に関する研究成果はマーケティングでも役立ちそうですが、具体的な活用事例は、まだないようです。

「記憶」研究の過程で、記憶に関していろいろな分類が提案されてきました。(記憶研究は脳科学よりも心理学の方が伝統があります。)
AIDMAの記憶は、「長期記憶」と考えられます。
長期記憶は「短期記憶」と対比されます。(最近は、「ワーキングメモリー」が注目されています。)
そういった、記憶の分類に「エピソード記憶」と「意味記憶」があります。
簡単にいうとエピソード記憶は体験で記憶されたもの、意味記憶は勉強したことが記憶されたものと言えます。
ブランドリサーチで純粋想起としてあげられた(記憶された)ブランド名でもエピソード記憶と意味記憶ではマーケティング上の意味が違うかもしれません。
「夏のバイト帰り、居酒屋で初めて飲んだ爽快感」とともに想起されるスーパードライの記憶と「コクとキレをコンセプトにビール市場でシェア逆転劇を演じた。」という日経ビジネスの記事などから想起されるスーパードライというブランド名では、その意味が大きく違うだろうことはすぐにわかります。
エピソード記憶されるようにブランド戦略を組み立てるべきであるというのが一般的な結論かもしれません。(いわゆる「体験マーケティング」というヤツです)

エピソード記憶と意味記憶をマーケティン的に考える時のポイントを列挙してみます。

  1. 心理学、脳科学の概念なので両者の区別があいまい。
  2. エピソード記憶は意味記憶に転化していくが、その逆はない。
  3. 意味記憶→エピソード記憶のプロセスがある。(AIDMA理論そのもの)
  4. エピソード記憶そのものには、マス広告は効かない。
  5. エピソード記憶のリサーチには定性調査(インタビュー)が必要

などです。
モデレーションとは、対象者のエピソード記憶を掘り起こす作業と言えます。

2006,5

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