コラム
意志決定とヒューリスティック
有名な「プロスペクト理論」の背景にある人間の意志決定パターンと言っていいのがヒューリスティックです。
プロスペクト理論にたどり着く前のカーネマンとトバルスキーは、認知心理学の視点で人間の意志決定のプロセスを研究していました。
人の意志決定は、一見論理的に見えながら、かなりの部分が背後の知識、文脈、期待、その時の感情に依存した直感的なものであることをその時、発見したのです。
この直感的な意志決定をヒューリスティックと言います。
ヒューリスティックを別の言い方をすると「論理的思考が容易でない、あるいはそうしている時間的余裕がないときなどに、差し当たって到達するそれなりにもっともらしい解決策」となります。
そして、このヒューリスティックな意志決定、解決策は、最適解ではなくても「適解」に近い場合が少なくないことがわかったのです。
ここで最寄り品のブランド選択意志決定を考えると、多くの場合、論理的意志決定ではなくヒューリスティックを使っているという仮説が出てきます。
「論理的思考が容易でない、のではなく、その必要もないし、そんなヒマもない。」のが消費者の日常であろうと考えられます。
これを我々は、「自動的ブランド選択」とか「習慣的ブランド選択」と分析する場合が多いのですが、これでは分析とは言えません。
この意志決定の「背後の知識、文脈、期待、その時の感情」を分析できてこそリサーチといえます。
つまり、ヒューリスティックの内容を明らかにすることですが、ヒューリスティックは論理とはいえないのでこの分析は明らかに定性調査に向いています。
それはさておき、脳の前頭連合野眼窩部および内側部の前部に損傷のある人はこのヒューリスティックが使えないそうです。
この部位はいろいろな感覚情報を受け取るとともに、扁桃核を中心とした辺縁系と密接に結びつき、体内・内臓情報や感情・動機付け情報も受け取っていて外的刺激と情動・動機付け情報を結びつける役割を果たしているそうです。
情動・動機付けは常に身体的・内臓系の反応が付随する(ソマティック反応)という仮説があり、このソマティックマーカーが起こるからヒューリスティックが働くという仮説です。
体内・内臓系の反応が「論理的意志決定」だけの脳の働きを助ける(決めてあげる)という仮説は興味深い仮説です。
「情動の身体起源説」という今は否定された説の焼き直しとの批判があるようですが、生身の消費者全体を分析対象とするインタビュー調査には気になる仮説です。
(「認識と行動の脳科学」p243~246)
2009,2