コラム

人口減少のモメンタム

人口減少問題が経済の解説用語としてあっという間に定着しました。
IYと西武グループの合併(正確にはセブン&アンドアイホールディングスとミレニアムリテイリングが将来の経営統合を目指して業務提携した)もホンダの販社体制の見直しもみんな人口減少社会を見通した行動と解説されています。
厚生労働省が2005年から日本の人口は対前年で減少したと発表していなければ、恐らくこれらの現象は、「デフレ経済の進行」が第一の説明要因になっていたのではないでしょうか。
日経新聞も本紙、日経ビジネスなどで人口減少を頻繁に取り上げています。
それらの中で、日経本紙の「経済教室」で、大淵寛さんという中央大学の先生が言っていた「人口減少のモメンタム(慣性、惰性)」というコトバに注目してみました。

日本の出生率が人口の置換水準を下回った(これを人口減少という)のは1973年だそうです。
出生率は、その後も30年以上、置換水準を下回り続けていたのですが、一昨年まで人口は増え続けました。
これが、人口変動(増加)のモメンタムです。
人口の置換水準とは、人口を一定に保つ最低限の出生率です。
置換水準としての出生率は、死亡率が低ければ低くて済みます。(これが少子高齢化)
この置換水準を合計(特殊)出生率で表すと日本は2.07だそうです。
女性1人が生涯に生む平均的なこどもの数(どのように計算するのだろう?)が合計出生率ですから、単純には平均2人強の子供の数が必要になります。
ところが、2004年で1.29が合計出生率です。
「人口減少のモメンタム」を簡単に言うと、「出生率を上げる社会政策が奏功しても人口減少は止まらない。」ということです。
この数値を一挙に2.07に持っていくのは困難と考えられます。
もし成功しても、一度、下降傾向になったモメンタムを反転させるには数十年が必要です。

少子化対策の主張には、この人口減少のモメンタムの視点が欠けているようです。
人口が始めて減少した2005年に注目するのではなく、出生率が置換水準を下回った1973年前後にフォーカスして、その原因を探るべきでしょう。
1973年は、第一次石油ショックの年ですが、それは関係なさそうです。
30年以上にわたって続いている少子化傾向は別の意味で「モメンタム」といえます。
社会的モメンタム(慣性、惰性)と言えるもので、人口変動のモメンタムとは違います。
これを分析しない限り、有効な少子化対策は出て来ないと考えられます。
あるいは、この社会的モメンタムは、政治的・社会的政策では止まらないかもしれません。
大淵先生は、大胆な移民受け入れをしない限り、日本の人口は今世紀中だけでなく来世紀も減少し続けて、日本人は絶滅する(計算では900年後!)と警告しています。
日本人の深層心理は、「絶滅への道」を容認しているのでしょうか。

2006,3

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