コラム

消えた現場

経済マスコミから、「中国シフトで空洞化する日本の製造現場」というタイトルの記事を見かけなくなったと思ったら、「景気回復を支える日本の製造業」と持ち上げたり、「2007年問題で製造現場は技術伝承の危機にある」と再び恐怖をあおっています。
経済マスコミの言うことは別として、実際のところ、日本の製造業の現場は強いようです。
日本の製造業の強さの理由のひとつとして、経営トップが製造現場を重視していることがよくあげられます。
トヨタを筆頭にした自動車メーカーが現場重視経営の典型と言われています。
一方、コムスンやNOVAの経営トップは、製造現場を無視した、あるいは現場から遊離した経営をしてしまったといえそうです。
自動車というハードの製造と違って介護や英会話というソフト・サービスの製造現場は見えにくいということもあったと思います。

そこで、リサーチ業界をみると、ネットリサーチの登場で、「現場が消えて」しまいました。
訪問面接調査など伝統的な調査方法にはフィールドワークという生産現場があります。
この現場で、集計するデータの品質管理と分析者のデータに対する姿勢・態度(=「現場知」?)が養われてきたのです。
しかし、ネットリサーチにはフィールドワークと呼べるプロセスがありません。
フィールドワークがなくなったことで、「スピードと廉価」を実現できたわけです。
その代償というべきことが「データの品質管理」と「現場知」の放棄です。
現在のところ、深刻な品質問題は発生していませんが、問題が発生しても品質を検証すべき現場はないのです。
なくなったものを惜しんでも仕方ないので、ネットリサーチの品質を真剣に考えることにします。
ネットリサーチのフィールド(現場)の品質保証は、調査モニターの数と質です。
現在、数は達成しつつ(100万人単位のモニター)ありますが、質の問題は残っています。
質は、モニター個人の特定と数多い属性項目で達成されます。
いたずらに数を集めるのではなく、母集団名簿として使えるようなモニター名簿を作ろうとする姿勢が重要になってきます。
個人情報保護法とリサーチ単価の低位定着という2つの困難はありますが、力のあるリサーチ会社に是非めざしてほしいと考えます。

2007,6

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