コラム
感情マーケティング
<感情マーケティングの定義はまだない>
マーケティングプロセスで感情が問題になることはまれである、というかほとんどない。
感情を問題にするきっかけは、新製品の販売予測調査の精度が悪い、なかなか当たらない理由の仮説を考えたことである。
新製品の販売予測は、コンセプト受容度、競合優位、価格受容、購入意向を調査することから始まる。
その調査結果と当該市場の市場規模、自社の販売力を勘案して売上予測をし、予測に沿って設備投資する。
販売予測がぴったり当たることは少ないが、大きく外れて売れないと損害額が大きくなり、新製品自体が定着しないことになる(失敗)。
逆に予測よりも大幅に売れても欠品問題や追加設備投資の意思決定などで混乱する。
また、売れすぎ・欠品問題は流通業者に迷惑・損害を与えるので対外的には売れなさすぎより問題が大きい。
<需要予測調査は「意識・認知、購入・ブランド選択は「行動・意思決定」>
需要予測にはたくさんの調査が実施される。
その調査は、調査対象者のある時点の静的な認知・意識状況をリサーチしている。
調査だから対象者の誰が聞いても、読んでも誤解なく理解できる文章で質問される。回答する対象者もある客観的態度で回答する。
「好きか嫌いか」などの情緒・感情を聞く質問があっても対象者は感情をわき立てて回答することはない。
冷静に感情抜きで感情質問に回答するという状況にある。
また、調査は自宅のPCやスマホに向かって回答する。インタビューも会場で受けるので「よそいき」の状態である。
一方の購入の現場では冷静な認知・意識よりも情緒、感情が優先される。
どんな少額の買い物でも自分のおカネと交換するのだから、最低対等、出来れば「得したい」感情がわいてくる。
文字通り身銭をきる場面だから、調査に回答した時のような「よそいき」の態度は影を潜め、調査でどう回答したかなどは忘れているし、思い出すこともない。
このように調査と購入では、場面、時間が大きく離れている、生活者・消費者が一貫した態度を持つことは期待できない。
調査では冷静な認知状況が測定され、購入場面では情動、感情が優位になる。
この齟齬、ズレが予測調査が当たらない原因のひとつではないか。
<消費者行動論でも感情はテーマになっていない>
AIDMAにしろAISASにしろ消費者行動モデルのゴールはAction(購入)である。
モデルのほとんどはAttentionからActionまで線形を想定している。
フラッと入ったコンビニの棚で「見たこともない」新製品に目が止まり買ってしまうと言うことは確かにありうることだが、通常、マーケティングは
「知られてないものは買われない」を前提としている。
製品・ブランド名を認知し、興味関心を持ってネット検索したりして、欲しい気持ちが高まり、店かネットで買う、買って使って気に入れば
常用ブランドとして記憶に残る。という行動モデルが仮説され、それに合わせてマーケティング活動がプログラムされる。
先の事例は、このプロセスが一瞬のうちに完了したと考えることもできる。
ファッション製品などで「衝動買い」と言われる行動に似ている。
この衝動買いをインタビューすると「このワンピースが買って!と私に呼びかけていた」という発言が見られる。
センス、ブランド、価格などの論理的検討は全く無視した「感情、情緒、雰囲気」で買っている。
購入意思決定、ブランド選択の現場ではこの「情動、感情、気分、雰囲気」が大きく影響していると考えるべきである。
<情動・感情・気分・雰囲気・マーケティング>
生活者の生活場面での消費行動、ブランド選択行動を精度高く予測できる調査を設計するには情動、感情の分析は必須である。
調査時点で感情が測定できる質問文を考え固定するアプローチと行動場面での感情を測定・コントロールするアプローチを考える。
情動・感情は文章化が難しい、浮かんでは消えてしまうので測定・固定化が困難というアポリアを抱えている。
簡単ではないが、マーケティング(リサーチ)にこの情動・感情を組み込みたい。
ここで言う情動・感情は、認知調査の項目にある消費性向、性格、行動特性、情報感度などとは違う概念であると考えている。
どなたか共同研究しませんか?
2024.8