コラム

Web消費の認知的不協和

認知的不協和とは社会心理学の概念です。
この概念もアメリカ直輸入で、日本では、1965年にフェスティンガーの「認知的不協和の理論」が訳出されています。
認知的不協和理論をひとことでいうと、「ある行動が間違ったと思ったときに、行動を修正するのではなく、認知を変えて納得する行動過程」ということになります。
マーケティングでよく引用されるのは、「当該商品(ブランド)のT広告をもっとも熱心に見る人は当該商品(ブランド)を買った(使っている)人だ。」という事例です。
この行動の説明のために「認知的不協和の理論」が使われます。
その説明は、

  1. 自分のブランド選択行動に絶対的な自身を持っている消費者は少数であり、
  2. 自分のブランド選択が正しいという「認知」に、"ホントにそうか"という「不協和」が生ずる。
  3. この「不協和」解消のためには、"選択のやり直し"か"正しさを自分に納得させる"という2つの方策が考えられる。
  4. ただ、選択のやり直しは、心理的にも行動の面でも負荷が大きい。
  5. そこで、「ホントにそうか?」という認知の不協和を「ホントにそう(正しい)」という認知を強化することで解消しようという方策が採用される。
  6. その手段として、広告をよく見て、その中から選択の正しさ(ブランドの良い点)を探して自分を納得させるという方法は最適であろう。

というストーリーになります。
これをリサーチの現場からみると、広告効果測定の問題になります。
グループインタビューで、ユーザーグループだけで広告評価を聞くと、認知率、内容理解度、共感度も非常に高くなります。
そのまま、「ウチのCMは問題ない。広告効果が高い。」という結論を得るのは危険です。
ブランド選択の認知的不協和を解消するする方策として「広告をよく見る」他にも有効な方策があります。
その中で、「世間で売れているものを買った。」という安心感も不協和を大きく減らします。

  • 店頭で大量陳列されている。
  • 店員が今売れ筋ですよと言った。
  • 行列が出来ている。

などで「世間で売れている」ことが実感できます。
ここで、Web消費を考えると、Webでのブランド選択は、現在のところPC画面に向かった孤独な作業になっています。
店頭も店員も行列もバーチャルで実感できませんし、実態のなさが「不信や不安」を大きくすることさえあります。
Web上の「ブランド選択行動」(=買い物)でも認知的不協和は発生します。
それどころか店頭消費よりも認知的不協和は強くなります。
なぜなら

  • 通販なので、商品が手許に届く間に強い不安、不信、後悔が生まれる可能性が高い
  • ナショナルブランドではない「掘り出し物」的買い物が多い
  • ブランド選択時に店頭や店員の反応が実感できない

からです。
Web消費では、発生した認知的不協和解消のために、自分から積極的に情報をとりに行く必要があります。
その情報も口コミサイトの書き込みなどが多く、信頼性や一般性に疑問があります。
不協和を解消するために取りに行った情報が、不協和を増幅する場合もあります。
そのことが、一層、認知的不協和を解消する欲求を強くします。
Webマーケティングでのブランディングには、この認知的不協和の問題が案外大きいかもしれません。

2004,3

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