コラム
「オーバーラポール」はリモートFGIでは発生しない?
定性調査のインタビューでのラポール形成とは「初対面の人同士の緊張を解いて気軽にしゃべる雰囲気を作る」作業と言える。
ラポールが形成されないと会話が噛み合わなかったり、バリアのある会話に終始してインタビューの目的が達成が不十分になる。
ラポール形成は、
- 対象者にインタビューの目的を完全に理解・納得してもらう
- 発言の自由の保障(何を話してもよい)を了解してもらう
- 責任を問われない保障(言いっぱなしでよい)を了解してもらう
を前提にして、
- 自由な会話のウォーミングアップ
- 参加者全員との良好な関係を築く
作業で達成される。
いくつかのテクニックはあるが、万能の方法はなく偶然と幸運・不運に左右されることが多い。
そのせいか、当のFGIの成否が試される最初の場面であるのに、モデレーターもクライアントも重要視しない。
テクニックは、
- モデレータは、基本、笑顔ではっきりと自信をもって話し始める
- モデレータは対象者と同じレベルであると感じさせる(専門家、関係者ではない)
- そうかといって卑屈な態度は厳禁(バカ丁寧な表現も避ける。「始めさせていただきます」)
- 対象者全員に目線を配る(どうしても正面の対象者に集中してしまう)
- 和ませようと無理なジョークは言わない、逆効果
などである。
まとめると、モデレータは最初、一方的にしゃべりながら「聞く(聞き役)」姿勢を感じてもらうのである。
ラポールが形成されればその後のインタビューはスムースに進行する。
対象者全員がインタビューの目的を共有し、自分の役割を自覚し、真摯に話し、人の意見を聞くという理想的なグループインタビューが実現する。
この時、まれにではなくオーバーラポールが発生し、インタビューをゆがめることがある。
オーバーラポールとは、
- 対象者全員が非常に馴れ馴れしくなり、古い友だち同士のような雰囲気になる
- お互いの信頼関係が強くなりすぎて、場の雰囲気に棹さす意見がでなくなる
状態を言い、
- グループの雰囲気は盛り上がり、活性化する
- ひとつの方向性に沿った発言が多いので分析しやすそうに感じる
ので、グループダイナミックスが実現した状況(あるいはバンドワゴン効果)と判断されてしまいやすい。
しかし、冷静に観察するとこれはオーバーラポールが発生し、インタビューと分析を歪めていることがわかる。
多くの場合、モデレータもバックルームのクライアントも「グッジョブ」と感じているので気づけないことが多い。
オーバーラポールは集団両極化現象をドライブさせる形であらわれるので、
- 「いいにしろ悪いにしろ」インタビューや分析結果が極端に走る
- インタビューは良かったのに「どうにも分析不能」になってしまう
などの弊害になってあらわれる。
オーバーラポール対策の第一歩は発生していることに気づくことである。
この気付きは鏡の前にいるモデレータにしかできないかもしれない。
オーバーラポールのきっかけは、
- 自己紹介段階で「価値観」のようなものがそろっていると感じたら注意
- 対象者の発言が「正のスパイラル」をもって同一方向に行く(疑問を呈する発言が皆無になる)
- 対象者全員が「同じような笑い方」をする(ボディランゲージの共振)
などにあらわれる。
モデレーターはこれに気づく訓練が必要。
オーバーラポール解消は比較的簡単で、
- モデレーターが席を外す。しばらく沈黙する
- 場の雰囲気とは正反対の意見を提示してみる(こんなことを言う人が大勢いるそうですよ)
など「流れに棹さす」ことで解消することが多い。
このところのコロナ禍でリーモートFGIが増えている。
まだ数多く体験していないが、リモートFGI(ZOOMなどで実施するFGI)のラポール問題を考えると
- ラポール形成はできない。やり方がわからない(初対面同士のテレカンはコントロールしずらい)
- モデレータも対象者も「場」の形成が実感できない(場の雰囲気がない)
などから、オーバーラポールも発生しないようである。
リモートFGIはグループインタビューではなく1on1インタビューが適していそうである。
リモートFGIはシステム(機器)の一般性、安定性、セキュリティ問題などクリアすべきことが多い。
2020.4