コラム

リモートFGIの非言語コミュニケーションと視線の役割

新型コロナ禍の中で仕方なくリモートのFGIを実施した人は多いであろう。
リモート会議システムを使ったインタビューの大方の評価は「1on1はむしろリモートが向いているが、グループインタビューは難しい」であろう。
理由は、リモート会議システムではグループで会話する・している状況が作りだせない、である。
現在の会議システム(ZOOM、MSTeams、GoogleMeet、他)は、

  • 同時発言はカットされる(両者の発言が消える)のではつらつとした議論・会話はできない。
  • 対象者全員が発言者の発言を聞いているかわからない、確認しようがない。
  • 対象者が「内職」や他のこと(子ども、ペット)に気を取られていてもわからない。

ので、「場の共有感」や「グループの凝集性」を作り出せない。
だから、モデレータと対象者それぞれとの1on1インタビューの寄せ集め以上の成果は得られない。
これは、会議システムの技術革新を待つより他ないが、VR的技術で「場の共有」感を演出するのは相当難しいと思われる。まして、モデレーション技術では解決できない。
場の共有感が生まれないとは非言語コミュニケーションが使えないとほぼ同義である。
リモート会議システムでは非言語コミュニケーションの手段のほとんどが失われる。
今回、リモート会議システムのFGI体験でわかったことは、「視線」を奪われる、「共同注視」ができないことが非言語コミュニケーションを奪っている事実であった。
通常の会話は、相手と視線を交わしながら行われる。
FGIで相手をじっと見つめることはないが、視線を交わすことで、

  • 「あなたに向かって話してる。あなたの発言をちゃんと聞いている」との意思疎通ができる
  • 視線を逸らせれば、「発言に自信がない」「あなたの発言に賛成できない」との意思表示にもなる。
  • (モデレーターとして)話者から他の人に視線を送れば「さっきのあなたの意見への反応ですよ」
    とダイナミックスを作り出せる  

と視線は、非言語コミュニケーションの重要で有効な手段である。
しかし、リモート会議システムではこれが使えない。
モデレータは、FGIのイントロ(開会宣言みたいなもの)で、テーマ・個人情報・拘束時間などの事務的発言をまずする。
この時、対象者全員に平等に視線を送りながら話すというテクニックをモデレータ教育で教わる。
発話とともに視線を使って「集団意識の醸成」を行うテクニックである。
リモート会議システムのFGIで同じことをやっても視線を送った相手の反応がないため「暖簾に腕押し糠に釘」状態でさっぱり効果はない。
画面上に分割されて表示されている2次元像に視線を送っても「受けてもらえたか」「視線を返してもらえたか」
が全くあいまいなままである。視線のやり取りが感じられない。
さらに対象者は、無意識のうちに自分の画像をみながら発言していることが多いと疑っている。
そうだとすると自分の家(ホームグラウンド)にいて自分に話かけているのだから、社会性(グループ形成)の契機がないことになる。
言い過ぎだが、ひとりごと、つぶやき、かもしれない。

以上の状況を分析すると「二項関係」から「三項関係」に発展がない状態である。
三項関係は、「9ヶ月革命」と言われ認知の発達上の大きな転換点である。
新生児は、私(赤ん坊)とあなた(親、他)との二項関係から私と他の人(あるいはモノ)とあなたとの3つの関係を認知するようになる。
これを三項関係の獲得といい生後9ヵ月頃になる。
例えば、親が、ストーブを視線を送りながら「アッちっち。危ないよ」と手を引っ込める動作をすれば、親の視線を追ってストーブを見て、親とストーブの関係(これは危険)を理解し、自分とストーブの関係(危ないもの) を学習・理解する。
この三項関係の獲得は、認知と学習の爆発的な発展に必須のことである。
三項関係の獲得の契機は共同注視(注意)である。
先の例では、親の視線の行き先を追って、「同じストーブ」に自分の視線を送ることが共同注視になる。
リモート会議システムでは、三項関係の重要な契機であるこの共同注視が起こらない。(起こせない)
対象者Aの発言中にモデレーターが視線をD対象者に送って「Aさんは、さっきのDさんの発言について述べてますよ。みなさん」というテクニック(共同注視)がリモートでは使えない。
また、FGIで提示物を見せる時、無意識にこの共同注視を使っている。
壁のコンセプトP,Qを提示して「こっちはどう?」とモデレーターが聞いた時、対象者はモデレレータの視線を追って「Pのことだな」と判断できる。
こうして、全員でPについて会話ができる。
「あっち、こっち」ではなく「PまたはQ」と具体的に言えとモデレータは教育されるが、現場では共同注視を使った「あっち」や「これ」の方が「共感」や」「凝集感」が強くなる。(体験的認知)極端に言うと共同注視が使えなリモートFGIは、9ヵ月未満児の集団なのである。
従って、リクルーティングやモデレーションをいくら工夫してもリモートFGIはリアルFGIと同等のアウトプットを出すことはできないのである。
(1on1インタビューはほとんどが二項関係で進行できるのでリモートでも可能)
(リモートでは画面共有でコンセプト提示するが、対象者がほんとに見ているかの確信は持てない)

 

 

2020.5

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