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コラム

「シニア市場」のマーケティング

「シニア市場」が新しい宝の山のように語られることが多くなっています。
ここで、グループインタビューのモデレーターの目で、このシニアあるいはシニア市場について考えてみます。

まず、シニア市場が注目されてきた要点をたどってみます。

① 日本の人口構成が高齢層にシフトしていく(少子高齢化は止まらない)
② 団塊の世代がシニア層になる(団塊の世代は常に市場を牽引してきた?)
③ 団塊ジュニアも子育て期に入った
というデモグラフィックなトレンド。
④ バブル崩壊後、日本経済全体が「シニア化」(成熟化)した
⑤ 個人消費の動向が景気を左右するようになった
⑥ これからのシニアは資産家である(住宅ローン、教育費からの解放)
という社会・経済的なトレンド。
⑦ これからのシニアは、従来(の老人)と違ってアクティブである
⑧ 情報感度が高い(携帯、ネットなど新しい情報媒体の普及)
という心理的傾向。
⑨ 最近、若者から発信し、他世代に波及するようなブームがない(作れない)
というマーケティングの行き詰まり。

以上のようなプロセスでシニア市場が注目されているようです。
これらを批判的に検討すれば、疑問点はいくつでも指摘できますが、ここではやめておきます。
ただ、シニアの定義として年齢区分くらいははっきりさせる必要があります。
我々は、経験的に「末子が大学(高校)卒業後~孫の誕生まで。数字では50歳~65歳まで」と考えています。

 「健康コンセプトによるライフステージセグメンテーション」の「健康解体期」とほぼ重なります。

シニア層をインタビューしていて気づいたことをいくつかあげてみます。

  1. 圧倒的に女性が元気(アクティブ)
    女性は、家事と教育という抑圧から解放され、文字通り第二の青春を謳歌します。      一方、男性の多くは行動範囲、交友範囲が狭くなります。
    もっとも、消費者として見たとき、あらゆる年代層で女性が男性よりアクティブではありますが。
  2. 個別化が極端に進行します。
    それまでの蓄積で格差が極端になります。
    経済的、心理的蓄積の差が意欲・積極性の差になります。
    端的にいうと、若い頃は貧乏人も金持ちも同じように遊べますが、ある年齢からは無理です。
  3. 夫婦、地域など身近なところに関心が集中します。
    家族は解体し、孫の誕生で再構築の機会が生まれます。
    会社という大きな社会から小さな社会に関心が移ります。
    「リタイア後は海外移住」は少数派。
  4. 新しいことへの関心度、許容度は少なくなります。
    今のシニアは昔の年寄りとは違うといっても、「老い」は生物学的必然です。
    認知力、心理的柔軟性は確実に衰えます。
    そこから、習慣的ブランド選択が定着して、「固執」に変化します。
  5. 生物学的年齢と自己イメージ年齢の差が大きくなります。
    家族的、社会的に主要な役割を終えてから「老成」までの長い猶予期間(宙ぶらりん)は歴史上、 初めての経験です。
    アイデンティティの再構築のために、少年・少女期とは背伸びの方向が逆を向きます。
    10歳程度若い自己イメージ年齢と実年齢のギャップが埋まるのは65~70歳になってからです。

以上のような特性を持つシニア層を単に「アクティブ」とだけ捉えたら、マーケティングを誤るのではないでしょうか。
従来のマーケットセグメンテーション、新製品の導入過程などの消費(者)行動仮説の見直しを含めてマーケティングを再検討する必要がありそうです。
宝の山がそこにあるというだけのシニア市場論は、そろそろ卒業です。
事実、この市場への参入例はたくさんありますが、成功例は極めて少ないようです。

2003,10

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